「さよなら」の代わりに手渡す光 ―― 結び目が解けたあとに始まる、独りではない旅路: No.46「離れゆく縁」

離れゆく縁:結び目が解けたあとに始まる独りではない旅路 アイキャッチ画像

人生という長い旅路の中で、私たちは幾度となく「縁」を紡ぎ、そして解いていきます。

離れていく背中を見つめる時、私たちの心はつい、失われたものを数えてしまいがちです。

けれど、もしその別れが、お互いが次の光を見つけるための約束だったとしたら。今回は、終着駅で預かりものを手放した一人の案内人の物語です。

今宵のポエムと動画:『離れゆく縁』

人との縁が切れても

「ありがとう」って

心の中で呟いて

静かに歩き出す

短編物語:砂時計の交換

その海辺の駅には、不思議な習慣があった。

列車を降りる人々は、見送りに来た者と、小さな砂時計を交換するのだ。砂が落ちきったとき、それは「その縁が役割を終えた」という合図だった。

青年・エリオは、一番親しかった友人の砂時計が最後の一粒を落とすのを見届けていた。

かつて二人は、同じ夢を語り、同じ寒さを分かち合った。けれど、いつしか歩む速度が変わり、眺める景色がズレていった。無理に歩調を合わせようとするたび、二人の間には見えない摩擦が起き、透明だった縁はささくれ立っていった。

「これまで、ありがとう」

エリオは、砂が止まった時計をそっと砂浜に置いた。
悲しくないと言えば嘘になる。けれど、心の中にあったのは、重い執着ではなく、凪のような静けさだった。

「縁が切れる」という言葉は、何かが壊れるような響きがする。けれど本当は、きつく結ばれていた紐が解けて、お互いの手が自由になるだけなのだ。握りしめていた手が開けば、そこにはまた、新しい何かを受け取るための余白が生まれる。

エリオは友人の背中が霧の中に消えていくのを、ただ静かに見送った。
追いかけることもしない。引き止めることもしない。

ただ、共に過ごした日々が自分を形作ってくれたという事実を、温かな光として胸の奥に仕舞い込んだ。

「ありがとう」

もう一度、今度は声に出して呟いてみる。

すると、足元の砂浜が、昨日よりもずっと広く、自由な場所に見えた。

エリオは新しい砂時計を一つも持たぬまま、自分だけの足跡を刻み、未知の地平へと歩き出した。

【付属解説】物語を読み解くヒント

  • あらまし
     縁の終わりを告げる砂時計が止まった時、主人公が執着を手放し、感謝と共に自らの道へ踏み出す姿を描く。
  • テーマ
     縁の循環、精神的な自立、感謝による解放。
  • 重要ポイント
    離れていく縁を否定せず、その役目を認めて感謝することで、自分自身の未来をポジティブに肯定できる。