歯科衛生実地指導料という身に覚えのない医療費の請求。それは会計時に気づいた致命的な「バグ」でした。
システム開発の世界には、「仕様(ルール)」と「実装(現実の動作)」という言葉があります。この両者が寸分の狂いもなく一致しているかを厳密にチェックするのが、我々SEやプログラマーの習性です。
ある日、この「職業病」とも言えるデバッグ・マインドが、歯科医院の会計で一つの致命的な「バグ」を捉えました。それは、多くの患者が見過ごし、あるいは「そんなものだろう」と受け入れている、診療明細書に刻まれた不自然な数字です。
会計時に走った「デバッガー」としての違和感
その日、歯科医院の窓口で手渡された診療明細書に、私は一瞬で指を止めました。
「歯科衛生実地指導料1 80点」
自己負担3割なら約240円。一見、小さな金額です。しかし、厚生労働省が定めるこの項目の「仕様(算定要件)」は非常に厳格です。
- 仕様: 歯科衛生士が医師の指示のもと、15分以上の直接指導(ブラッシング方法など)を行い、指導内容を記載した文書を当日に手渡すこと。
- 実装: 衛生士は淡々と歯周ポケットの深さを計測しただけ。指導やアドバイスは一切なく、文書も受け取っていない。
「仕様と実装が完全に矛盾している――」。この不整合を「仕様変更」や「ケアレスミス」で済ませるわけにはいきません。私はこのバグの正体を突き止めるため、「カルテ(診療録)の開示請求」という生データの抽出(ダンプ)作業に踏み切りました。
カルテ開示請求で判明した「ファンタジーな指導記録」
取り寄せた記録の中に、私は驚くべき「生データ」を発見しました。それが、一度も見たことがない『歯科衛生実地指導記録』という名のドキュメントです。
そこには、私が受けてもいないアドバイスが、まるで実際に行われたかのようにびっしりと記載されていました。
「歯ブラシは『えんぴつ持ち』で、小刻みに動かし、優しく丁寧に磨きましょう」
教科書通りの完璧なコード(記録)です。しかし、実行(現実)が伴っていない以上、これは存在しない処理を記録した「架空のログ」に他なりません。
さらに調査を進めると、医師のカルテには「指導の開始・終了時刻」の記載すら抜けていました。ルール上、時間記録のないログは、監査において実施を確認できない重大な不備となります。
なぜ医療現場に「バグ」が常態化しているのか
なぜ、これほど明白な不整合が放置されているのでしょうか。その背景には、医療現場で使われるレセコン(会計請求ソフト)の仕様があると考えられます。
「検査をしたら自動的に指導料をセットする」というシステムの運用が、現場の「いつもの流れだから」という慣習と結びつき、結果として患者が受けていないサービスに公金と患者の負担金が流出する構造を生み出しているのです。
これは単なる一個人の体験談ではありません。行政(地方厚生局)の担当者ですら、「この不適切請求は非常に件数が多く、常態化している事例である」と認めている、業界全体のシステムエラーなのです。
お口の「主権」を取り戻すために
システムにバグがあるなら、ユーザーである私たちが賢くなるしかありません。
本書『お口の主権を取り戻せ』では、SEとしての検証過程を詳細にレポートするとともに、以下のような「実用的なデバッグ手法(自衛策)」を余すことなく公開しています。
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「お医者様にお任せ」という受け身の姿勢を卒業し、自分の健康とお財布の「主権(コントロール権)」を取り戻しませんか?
次に歯科医院を訪れたとき、あなたの明細書に「見覚えのない点数」というバグが潜んでいないか、ぜひデバッガーの視点でチェックしてみてください。その小さな一歩が、あなた自身と日本の医療費を守る確かな一歩になります。
※ 本記事は、電子書籍『お口の主権を取り戻せ』の内容の一部をWeb用に再構成したものです。







